【制作日誌】8・15靖国 – 今をときめく☆映画監督の映像と交換!(2018.09.01 革命前夜)

もう9月になってしまいましたが、私は未だに終戦記念日の撮影映像を見返す日々です。

 

この日に撮影した映像が膨大な量だったので、それらを見返すだけでもだいぶ時間がかかりましたが、加えて、他の監督が撮影した映像を提供していただいたので、それらの書き起こしもしているためです。

 

2015年8月15日には、韓国のドキュメンタリー制作集団「プルン・プロダクション」のメンバーが来日しており、わたし同様、靖国神社や反天連デモを取材していました。

 

「靖国神社」や「反天連デモ」と言っても、その撮影範囲は広く、一人で(1台のカメラで)網羅することは難しく、また、どこをどのように撮影するかでも、見せる表情&伝わる情報がまるで変わってきます。

 

なので取材を終えた後、「プルン・プロダクション」の中心メンバーである、Mun Jeong-hyun(ムン・ジョンヒョン)監督と、お互いの撮影データを丸ごと交換することになりました。

 

ムン・ジョンヒョン監督と言えば、キム・ドンウォン監督の『送還日記』(2003年)の撮影をはじめ、自身も監督として、ベルリン映画祭に出品したり、『Yongsan(龍山)』(2010年)が、山形国際ドキュメンタリー映画祭で奨励賞を受賞したり、『Collapse』(2014年)が、釜山国際映画祭で韓国ドキュメンタリー部門の最優秀賞を受賞するなど、まさに韓国ドキュメンタリー映画界の「今」を代表する監督です。

 

Mun Jeong-hyun(ムン・ジョンヒョン)監督

 

 

…そんな大御所映画監督の撮影した映像と、いまだに「自称映画監督」とか言われてしまう私の撮影映像を、無条件でお互いに提供って、それ、私にしかメリットないんじゃないかしら…(^^;)?!

 

まぁ、ムン監督は(お世辞かもしれませんが)、「自分は怖くて、反天連のデモを外側から撮影した。デモ隊の中に入って撮影をしたあなたは勇気があり、その映像には価値がある」と言ってくれたのですが。。。

 

んーーー、でも、実際の撮影映像は、確かにデモ隊の中ではありますが、機動隊にびっちり囲まれて、映っているのは機動隊の背中ばかりなんですけどね…(^^;)!!!

 

私の撮影した映像を見てどう思うかは分かりませんが、私は彼が撮影した映像を書き起こしながら、その映像の美しさに度肝を抜かれました。

 

わたしと全く同じ対象を撮影していて、どうしてこんなにも差が出るのか。

 

同じ対象にカメラを向けているからなおさらのこと、力量の差がはっきりと分かるのかもしれません。靖国神社を、建造物として美しく撮る。参拝のために列をなす人々を様々なバリエーションで撮る。神社の中に散らばるさりげないモチーフを逃さず見つけ、それらを印象的に撮る。

 

「靖国神社」という建物ひとつとっても、それを「きちんと撮る」というのは、やはり撮影の基本が身に付いていないと撮れませんし、さらに「美しく撮る」となれば(美しく撮れば撮るほど、この建物の業の深さが表現されるように思います)、撮影技術の訓練のみならず、優れた美的感覚も持ち合わせていないといけません。

 

ムン監督は、大学で建築と映像を学んだそうで、彼の映像はひときわ建物の美しさが際立っていました。

 

見ていて、私が必死で撮った靖国神社の映像、これじゃ全部要らないじゃん!と思ってしまうほどでした(^^;)。(あ、でも、彼は軍人コスプレとラブドールを撮っていない! 私はばっちり撮っているぞ!)

 

ところで、「プルン・プロダクション」のメンバーは、この時、安田さんのコーディネートで撮影をしていました。海外はもちろん、国内でも、自分が事情を良く知らない場所やコミュニティを取材・撮影する際には、「誰に案内してもらうか」、「誰がコーディネート役となるか」は、とても重要です。紛争地取材ならば、それこそ命にまでかかわってしまいますよね。

 

コーディネーターは、単に言語に明るいだけでなく(通訳が出来るだけでなく)、例えば靖国神社なら、靖国神社の歴史・特異性の理解はもちろんのこと、実務面でも、撮影許可証の取得手続きから、押さえておくべき撮影ポイント、参拝者のピーク時刻、政治家の参拝が撮影できるスポット、遊就館の展示がどのようなものか…などなど、ひと通り知っていることが望ましいです。そうすれば、限られた時間の中でどのように動き、いつどこで何を撮るべきかが分かります。

 

そして反天連のデモならば、危険を伴うデモであることを知っていて、それを撮影者にも知らせておくべきです。どのような警備体制で行われるか、どのような妨害があるか。そして、最も衝突の激しい地点はどのあたりか。

 

撮影者目線で(いやらしく)言えば、「最も衝突の激しい地点」というのは、ケガをしないように注意をするというだけでなく、「一番良い映像が撮れる地点」なのです。ですから、そこを逃さず撮るということが最重要となります。

 

ムン監督の撮影映像を見て、彼自身の撮影技術もさることながら、安田さんのコーディネート力も素晴らしいと思いました。

 

靖国神社撮影のあと、反天連デモの前に、「国民大行進」もしっかり押さえていますし!

 

(以下の写真は全て、ムン監督の撮影映像より切り出したもの)

 

 

 

そしていよいよ反天連のデモ!

 

なんと、最も衝突の激しい地点(九段下交差点付近)の対岸にあらかじめ陣取り、俯瞰的なショットで撮影していたのでした!!!

 

 

デモ隊の動きを追う(着いていく)ことはせず、もう、この場所に絞っての撮影。それはそれで、撮影者として「賭け」ですが(九段下交差点にたどり着くまでの間に何かあっても、それは撮れないのですから)、でも、1箇所だけ撮影するとしたらきっとここになりますね! しかも、対岸の高い位置からですから、ネトウヨたちの表情もばっちり押さえられる…。なんとすばらしい読みと計算!!

 

 

靖国神社の撮影映像があまりにも素晴らしかったので、ムン監督の反天連デモ映像に、私はマックスの期待を寄せました(^^)!

 

おおお、機動隊の指揮官車が来たぞ!!! ということは、このすぐ後にデモ隊が続くということだぁぁ!!!

 

 

あまりの興奮に、私はモニター画面にかぶりつくようにして、その瞬間を待ちます!

 

おおお、デモ隊側の先導車見えたぞ!!

 

 

機動隊にびっちり囲まれていますが、デモ隊先頭の方々が見えます!! うわ~、もみくちゃだし、沿道のネトウヨたちの怒号と歓声が、まるで古代ローマのコロッセオのよう!

 

 

 

…と、ここでまさかの展開が。

 

なんと、靖国神社で、あれだけ冷徹な美しいカメラワークを披露したムン監督が、この大狂乱にはさすがに興奮したのか、カメラワークが不安定になり、視線が泳いでいるのです…!

 

えええーーー

 

視線と共にカメラが泳ぎ、あれよあれよという間に、デモ隊は通り過ぎていきました。

 

えええ~~~なんで~~~

 

期待と興奮で、机にかじりつくように映像を見ていた私は、落胆し、そのまま床にずり落ちました…

 

もちろん、それでも私の撮影した映像より1,000倍良く撮れているのですが、私はしばらく床に伏せたまま、起き上がることができませんでした(泣)。

 

やっぱり、あれを初めて見たら、そりゃ興奮するし、動揺もするよなぁ…。

 

それにしても残念だけど!!

 

ちなみに、ムン監督の撮影映像の中には、デモ隊の中に入って撮影していた私の姿も、一瞬ですが写り込んでいました!

 

下記2枚の写真の中で、私がどこにいるか分かりますか(^^)??

 

 

 

正解はこちらです! モノが飛んできても大丈夫なように、頭にみどりのタオルを巻いて、いつになくあやしさ倍増のわたし(^^)/

 

 

やや話が脱線しましたが、反天連デモ映像は、映画本編で必ず使用したい部分ですし、やはりこだわりたいなぁ…と私は考えました。

 

ムン監督の映像も、もちろん素晴らしく撮れているし、使わせていただきたいと思っているのですが、この日、他に撮影していた別の映画監督にも、当時の映像をまだ保管しているか、それを見せていただけないかと、つい先日お願いしました。

 

こういうお願いは、本当は撮影直後にお願いすべきで、3年も経ってからではもう手遅れなのかもしれませんが、ダメもとで連絡してみたところ、「探してみます」というお返事をいただきました!

 

うわ~、ありがたい!!! しかも、ここ10年ほど8・15反天連デモの撮影をされているそうで、期待大!!

 

自分の撮影素材がダメなのを棚に置いて、「こだわりたい」とか言う自分はナニサマって感じですが、でもあきらめたくないし、誰が撮ったに関わらず良い映像は良い、出来ることはやりたい、ベストを尽くしたい!ではありませんか。

 

…というわけで、私の8月15日はまだまだ終わりが見えませんが、とりあえず、お願いした映像が届くのを待つ間、書き起こし作業は先に進めていきたいと思います。

 

以上、本日の制作日誌でした(^^)/