ぴあ映画生活 2011年10月11日 東北発・世界へ! ドキュメンタリー映画界、期待の監督たち

山形国際ドキュメンタリー映画祭2011に参加した際、ライター・水上賢治さんがインタビューをしてくださり、2011年10月11日のぴあ映画生活で紹介されました。ネット上の記事はこちらよりご覧いただけます。記事の全文も以下にご紹介します。

さようならUR

山形国際ドキュメンタリー映画祭, 掲載記事

記事本文 東北発・世界へ! ドキュメンタリー映画界、期待の監督たち

東北発信の世界的映画祭として知られる山形国際ドキュメンタリー映画祭2011(以下YIDFF)が現在開催中。海外から届いた最新ドキュメンタリーは例年通り、ハイクオリティ。審査員を務めるカナダの鬼才、アトム・エゴヤンら世界からゲストも集まり、連日大きな賑わいをみせている。『A』の森達也監督や、新作『トーキョードリフター』の公開も待たれる松江哲明監督ら、日本を代表するドキュメンタリストをいち早く紹介する役割を果たしてきたYIDFFだが、今回も彼らに続く才能ある映像作家たちの作品が会場を沸かせている。その中でも特に、日本人監督2人の作品をフォーカスしてみる。

『女として生きる』の江畠香希監督

まず日本のドキュメンタリー作品ではあまり踏み込まれていないセクシャルマイノリティの問題に取り組んだ意欲作『女として生きる』。トランスジェンダーに関するマスメディアの画一的な扱いに一石を投じるとともに、そこから自殺、差別や偏見、社会システムの在り方など、作品世界は広がっていく。当事者でもある作者の江畠香希監督は「セクシャルマイノリティの本音や日常を記録することで、現在のひと括りにされている彼ら、彼女らのイメージを解体して、そこから見えてくる真意を見出せたらと思いました。性の問題は深いですが、今後も追求していきたい」と語る。

もう1本は『さよならUR』という、取り壊しの決まったUR(旧住宅公団)管理の団地を取材した作品。突然立ち退きを迫られた住人へのインタビューを基軸に、対するURやその周囲も丹念な取材がなされており過疎化が叫ばれて久しい公共団地やニュータウンの問題、URの実態、事業仕分けの弊害、さらには現在の日本の社会形態や権力までが見えてくる。何より際立つのが、突撃リポーターも真っ青の熱血漢で取材に挑む女性監督の姿。URだろうと国土交通省だろうと物怖じせずひとりで切り込んでいく彼女のジャーナリスト魂が勇ましい。手がけた早川由美子監督は「きちんと暮らせる場所があるかないかは人にとって重要。現在、私自身が居候の身だからかもしれないのですが(笑)、住宅問題は今ある社会のあらゆる問題の根本に思えました。それがこの作品を作るきっかけになりました。突撃取材になってしまったのは、けっきょくUR側が何度取材を申し込んでも応じてくれなかったから。書面での回答でさえ応じてもらえませんでしたからね(笑)」と語る。

日本からの作品としては、ほかにも多摩川の河口で犬と暮らす老人をひたすら見つめ続けた奥谷洋一郎監督の『ソレイユのこどもたち』、極めてユニークな実験的手法で都市の記録が試みられている『羊飼い物語/新宿2009+大垣2010』なども観客から大きな評価を得ていた。こういった気鋭の日本人映像作家の作品がひとつでも多く劇場公開に結びつくことを願う。

《山形国際ドキュメンタリー映画祭2011》
10月13日(木)まで開催中
会場:山形市中央公民館、山形市民会館、フォーラム山形ほか