成田さんが昨年6月末に三鷹の物件を出て、もう半年が過ぎてしまった。年が明けた今も、次の移転先は見つかっていない。
今の場所は、次の移転先が見つかるまでの仮住まいのつもりだが、ボロアパートに見えるこの場所でも、写真に必要な道具はすべてそろっており、お稽古をしたいという人たちのために開かれている。
連載(1)で述べた通り、成田さんはこれまでの「すべて」の記録を保存している。それは途方もない膨大なコレクションであり、アーカイブである。
成田さんのところには、最近「アーカイブ」に関する相談が多く寄せられているという。
昔の写真を長期保存する際、「ビネガー症候群」が問題となる。素材(主に酢酸セルロース系)が湿気や熱で加水分解を起こし、酢酸を発生させるという経年劣化現象だ。フィルムが変形し、最終的には崩壊してしまう。
成田さんによれば、「酸をきちんと抜く」もしくは「20度以下の温度で保存する」ことで、このビネガー症候群の発生・進行は抑えられるのだそうだ。
「酸」の問題は、フィルムだけでなく紙にも影響する。例えば、写真を貼っていたアルバムの台紙。昔、アルバムの台紙は酸性だったので、時が経つにつれて黄色に変色してしまう。
その場合、非酸性の台紙に貼り替えるだけでは不十分だ。すでに写真側にも酸が移ってしまっているので、まず漂白をする必要がある。漂白後も、写真にはまだ銀が残っているので、今度は金属を黒化させる。最後に、それらの作業に使った薬品をすべて除去する。そうすれば、紙は1,000年持つのだという!!
成田さんは、自分が撮る写真はきちんと処理し、長期保存に耐えうるように作業をしてきた。それは誰のためでもなく、当然のこととしてやってきた。しかし、成田さんが当たり前のようにしてきた作業は、現代社会ではほとんど失われつつあり、昔の写真の保存に関する相談が、ここにきて増え始めている。成田さんは、それらの相談に応じるのも、今の光房の大きな役割だと感じている。
一方、デジタルはどうか?
デジタルデータの寿命は約30年と言われている。巷では、30年ごとにデータを移し替えればOKと言われているが、そのかんにもデータは日々増大していくので、実際には「すべて」のデジタルデータが保存され続けていくことは無理だろう。
そこで起こることは何か?
それは、写真の「選別」だ。素晴らしい、価値があるとされた写真だけが、選ばれ保存される。「価値がない」と判断された写真は、長期保存の対象から外される。だが、その基準はなんだろう? 価値がある、価値がないなど、だれが決めるのか? だれがわかるのか?
デジタルではない、アナログの成田さんのやり方なら、写真を「選別」することなく、「すべて」保存しておける(もちろん大変ではあるが)。
成田さんが「写真に、良い写真も悪い写真もない」と、選択・評価されることに徹底的に抗ってきたのは、写真がその時々の価値や流行で判断され、選別・消費されてしまうのだということを、半世紀以上前から本能的に感じていたからなのかもしれない。
成田さんとしては、体力・気力的に、あと10年は成田光房を維持できると考えている。まずは一刻も早く、次の移転先を見つけたい。
成田さんが経験したような修業生活は、もう今の時代にはそぐわないだろう。写真を徹底的にやりたい人には、まずどこかで職を得ることを勧め、空いている時間を写真の稽古にあてるよう話している。
以下は、2023年5月25日・三鷹にて、在りし日の成田光房をうつした写真だ。






情熱あるもの、扉をたたけ!
以上で、「選択と評価に抗う 成田秀彦・79歳の現在地」の連載を終える。成田光房の詳細や最新情報は、光房のホームページを見てほしい。
連載を最初から読みたい場合はこちら⇒「選択と評価に抗う 成田秀彦・79歳の現在地(1)」