路上の小さな抵抗&表現活動~(たぶん)世界最小の映画館~

2017年8月19日に行われた経産省前テントひろばのイベントについて、「テント日誌」用に書いたレポートに、写真と補足説明を加え、以下ご紹介します。

 

路上の小さな抵抗&表現活動~(たぶん)世界最小の映画館~

 

昨日は、テント強制執行から1年となるイベントが、テント跡地にて行われました。

 

テント関係者によるスピーチ、音楽演奏、オープンマイク、甘酒の振る舞いなどに加え、強制執行の様子を捉えた映像の上映もあり、私は映写を担当しました。

 

「テント」というモノがなくなった後、あの場所で映像の上映を行うのは初めてではないかと思います。雨風をしのげるテントがないということは、水濡れ厳禁の映写機材にとって、とても過酷です。特に夏場のゲリラ豪雨なんて最悪!

 

さらに、経産省の目の前という上映会場は、権力に対峙する最前線でもあるため、役人・警察の監視や干渉が激しく、大掛かりな設営をするのは難しいだろうとも想像しました。(何しろ、経産省側のフェンスや植木に少し寄り掛かっただけでも、警備員がすっ飛んできますから)。

 

そこで思いついたのは、「車の中での上映」でした。

 

大きなワゴン車のような車をレンタルし、その中で上映をすれば、雷雨でも問題なく機材も安心、そして権力からの妨害もされにくい。

 

そして何より、今回のイベントが、真夏の夜に行われる「お祭り」のイメージで行うとのことでしたので、映画館に見立てたワゴン車に乗り込み映画を観るという体験は、祭りの「見世物小屋」や「お化け屋敷」の雰囲気で、ワクワクするのではないか?とも考えました。

 

よし! これでやってみよう!

 

早速、テントの方々にも協力いただいて、準備を始めました。ワゴン車のレンタル、発電機の動作確認、明るい場所でも見やすい高照度のプロジェクターの手配など、準備は順調に進みました。

 

・・・とはいえ、私自身は、ワゴン車内で映画の上映をしたことがありません。実際に、どのような見え方をするのか、ドアを閉めてどの程度の遮音効果があるのか、あの場所で車を長時間停車していて問題ないか、などなど、すべて未知数でした。

 

ですから結局は、「やってみないと分からない」という状態で、8月19日当日を迎えました。

 

経産省前テントひろばは、強制執行後も毎日座り込みを継続しています!

 

 

この日は、2011年9月11日の抗議活動開始から、なんと2,170日目!

 

 

15時、立派なワゴン車が経産省前に到着したところで、あいにく雨がパラパラと降り始めました。機材一式を車内に運び込み、発電機もONにして映写のセッティングを始めました。

 

 

機材は完ぺきにそろえたつもりが、小さな変換アダプタを忘れてきてしまったことが発覚! ワゴン車を走らせてもらい、新橋駅前のヤマダ電機へ。ヒヤヒヤしましたが、無事変換アダプタを購入して、経産省前に戻りました。

 

映写の準備を再開する頃には、雨は本降りとなり、やがて土砂降りになりました。時折雷も鳴る大雨の中、予定通り17時ごろから映画館がオープンしました。

 

 

映画館の定員は8名。最初のお客さんは、4人の子供を含む8名。映写担当の私も含めた合計9名が後部シートに乗り込み、上映を開始しました。

 

 

 

まるで「ポケモン」の映画を観るかのようなはしゃぎっぷりで、最前列に座った子供たちは、上映が始まるとじっと映像を見つめていました。「きょうせいしっこう」という言葉も知らないであろう彼らは、「不条理な大人の世界」をどう感じたのでしょうか・・・(> <)?

 

 

雨はますます激しくなりましたが、世界最小の映画館にはひっきりなしにお客さんが来てくれました。最終的には、11回上映し、約80人の方にご覧いただきました。強制執行のニュースは、この日のイベントに来られるような方々はもちろん知っていましたが、実際の強制執行がどのように行われたのかまでは、見たことがないという人が多かったです。強制執行の現場を撮らせまいとする執行官と、撮影しようとする弁護士、ジャーナリストたちの攻防は、もはや「怒り」を通り越して、滑稽な「喜劇」のようにも映りました。

 

 

 

 

 

 

 

17時から上映を始め、20時過ぎに最後の上映を終えました。そのかん、テントスタッフの方々に、お客さんの呼び込み、入れ替え、靴の整頓など、休みナシで担当していただきました。ありがたかったです。

 

 

最後にほんの少しだけ見ることのできた、うらんさんのライブ。

 

 

事故やトラブルなく上映を終えられたということはもちろん、あの場で、このような形の上映が実現出来たという、「前例」を作れたことにも、大きな意味を感じています。テントの活動そのものと共通しますが、路上や公共空間での表現の自由が、ますます厳しく制限されていく時代の中で、「やった」という実績や前例を作ることは、とても大事です。でないと、私たちが自由にものを言い、表現できる場が、どんどん奪われていってしまうでしょう。今後も、映像の上映だけでなく、様々な表現活動が、この場で行われていくことを願います。

 

ところで、上映した映像は、宣伝時には「制作者:ヒ・ミ・ツ♡」としていましたが、実際には、当日現場にすぐ駆け付けた一瀬敬一郎弁護士の撮影した映像を、私が編集して、12分にした作品でした。編集作業自体はシンプルでしたが、この作品の完成までには、ちょっとした思い入れがあります。

 

というのも、昨年8月21日に強制執行が行われた際、私も朝7時半ごろに現場に駆け付けましたが、その頃には撤去作業は完全に終了しており、私は強制執行の現場を撮影することができませんでした。執行の現場に居合わせたいと、たびたびテントに宿泊して備えていただけに、その日泊っていなかったことがとても残念でした。

 

すると、テントの方が、「一瀬弁護士は撤去の写真を撮った。動画もあるのでは?」と教えてくれました。早速、一瀬弁護士の事務所の連絡先を聞き、動画を撮ったかどうか、その動画のデータを提供していただけないか?と連絡しました。

 

「動画を撮影した。動画のコピーを提供する」と快諾してもらえたものの、そこからが大変(?)でした。

 

何しろ、沢山の事件を扱い、海外にも頻繁に出張する一瀬弁護士は、とにかく忙しいのです。データはある、でも、データをコピーする時間がない、そして渡す時間がない・・・。受け渡しの日程は何度も変更&先延ばしになりました。

 

私は、小説家の大先生の自宅へ足しげく通い、原稿を催促する編集者のごとく、1週間おき、さらには数日おきに、メールや電話で、データの催促を繰り返しました。最終的には、私の「データを渡してくれるまで帰りません!」ぐらいの気迫が伝わったのか、数か月後にやっと一瀬弁護士とお会いし、データのコピーを頂きました。待ちに待った映像を拝見した時、数か月待ち続けた甲斐があったと思うほど、大変貴重な現場を捉えた映像だと思いました。

 

そのようないきさつで完成した作品、『本当にあった怖い話~強制執行ドキュメント~』を、今後も多くの方にご覧いただき、私たちが今、どのような時代・社会を生きているのか、考えるきっかけとなってほしいと願っています。

 

以上、昨日のイベント、映写部門の報告でした。
早川由美子