「音」のプロフェッショナルに学ぶ!~なにぬねノンちゃんねる・野口昌泰さん~

私はこれまでに何度も「映像ワークショップ」を担当し、そのたびに、「映像をきれいに撮ることに集中しがちですが、映像以上に”音”が大事です」と言ってきました。

 

ドキュメンタリーは、その場の状況によっては、撮影者が介入できないケースも多いのですが(⇒状況に合わせて、あるがままを撮るしかない)、例えばあらたまってお願いできるインタビューなどの撮影ならば、できるだけ静かな場所で撮る、ビデオカメラに外付けのマイクを取り付けて撮る、屋外ならば風の音を軽減する風防(モジャモジャのカバー)を被せる等、なるべく音がきちんと録れるようにしましょう…と説明をしています。

 

私自身も、私が撮影を行う際にはそのようにしているのですが、とっさの時には屋外でもビデオカメラのみで撮影をしてしまい、あとで映像を再生し後悔することが良くあります。

 

また、マイクを付けるのを遠慮・躊躇してしまう時も度々ありました。

 

音にこだわるがために、がっしりしたマイクを取り付け、風防を付け、ヘッドホンもつけた状態で撮影しインタビューも行うのは、何気ない日常の撮影シーンでは大仰すぎて、撮られる側が緊張してしまうのではないか?…と遠慮してしまうのです。

 

そんなわけで、他人に「音にこだわりましょう」と言っている割には、私自身は最低限の音対策しか現場では行っていない…そんな矛盾を抱えていました。

 

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先月末、とある撮影の依頼を受けました。知り合いに紹介してもらった海外の映画監督のプロジェクトで、コロナのために渡航できないので、代わりに必要なシーンの撮影をしてほしいということでした。

 

私も”映画監督”ではありますが、私は上述したように、マイクはつけたりつけなかったりですし、ビデオカメラは民生用の簡易なものです。

 

しかし、その監督からの技術的な指定は、私がこれまでにやったことがないようなプロフェッショナルな体制を必要とするものでした。撮影はソニーの4Kシネマカメラ、録音はピンマイクとブームマイク。メールにはさらに細かくスペックの指定がありました。

 

1) Camera – Sony FS5
2) File type – MXF
3) File format – XAVC QFHD
4) Image size – 3840 x 2160 (4:2:0)
5) Frame rate – 25 progressive
6) 100 mbps
7) Audio – 48 hz

 

プロフェッショナル用の機材というのは、作り手の詳細な好み・こだわり、または業界の要求水準に合わせ、マニュアルで細かく設定できるようになっています。しかし、それは逆を言えば、マニュアルで細かく設定して撮影しなければ本来の性能が生かせない、一般の民生機のように「オート」でそれなりにきれいに撮ってくれるものではない、ということでもあります。

 

私はこの依頼に、プロフェッショナルな体制で応えようと、昨年末に「かけこみ亭」上映会の生中継をお願いした、野口昌泰さんに相談しました。

 

野口さんといえば、市民運動の現場で「なにぬねノンちゃんねる」として生中継を精力的にされていることで知られていますが、本業は音響と照明のプロフェッショナルなのです。

 

野口さんに相談し、録音は野口さん、撮影は野口さんに紹介していただいたカメラマンにお願いすることになりました。カメラマンの方は、長年、テレビ・映画業界で活躍し、ソニーのシネマカメラの扱いにも慣れているとのこと。

 

おかげで、いわゆるテレビの制作体制のような、ディレクター兼インタビュアー(=私)、カメラマン、録音マンという3人体制で挑めることになりました。

 

当日の撮影に向け、指定された機材一式のレンタル手配も済ませていましたが、残念なことに先方の都合で、その撮影はキャンセルとなってしまいました。

 

キャンセルの連絡を受け、機材レンタルもキャンセルしましたが、せっかくの機会なのでプロフェッショナルのマイク機材だけはキャンセルせず、その扱い方について野口さんに教えてもらうことになりました。

 

プロ用のマイク機材を触ること自体、私は初めてのことです!!

 

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レッスンの前日、業務用の機材レンタル専門店から、宅配便でマイクが届きました。

 

マイク1本のレンタルで、こんなに大きなジュラルミンケースで届くのですねぇ…。これだけで7~8キロはありそうです(> <)

 

 

 

中を開けてみると…

 

 

 

マイクに取り付ける立派な風防と、その風防の毛並みを整える「クシ」まで入っています!

 

 

私は、ビデオカメラの専用ケースを持っているのですが、なんだかんだ、取り出しやすさと扱いやすさから、通販で何かを買ったときについてくる「プチプチ」が最良と考え、プチプチの袋にカメラを入れて持ち運んでいます。

 

ジュラルミンケースに入ったマイクと、「プチプチ」に入れただけの私のカメラ…。

 

 

 

一応持っているカメラバッグ。10年ほど前に購入したものの、数回しか使ったことがありません(^^;)

 

 

 

カメラバッグは、たくさんの種類が販売されていますし、良さそうに&必要なものに思われるかもしれませんが、私個人としては「とても使いづらい」と思いました。確かに、クッションが衝撃から守り、可動できる間仕切りは便利そうではありますが、そもそも、取材時はカメラだけを持ち運ぶわけではないのです。

 

三脚、マイク、予備のバッテリーに加えて、長時間の撮影時にはバッテリーのチャージャーや電源ケーブルも持参します。インタビュー取材の時には、関連する資料も持ち運びます。屋外の撮影なら上着やレインコート、泊りがけの取材時には、自分の着替えや洗面用具も持っていかねばなりません。取材中にご飯を食べに行く時間もままならないと予想される場合は、カロリーメイトなどの非常食も用意しておきます。

 

それらを収納し運ぶのには、2~3泊用のキャリーケースを使うことがほとんどなので、ビデオカメラはキャリーケースの中で、詰め込んだ洋服などによって衝撃から十分守られるのです。

 

それを、カメラはカメラ専用のバッグに収納するとなると、その分キャリーケースの中で余計なスペースが必要となるし、バッグを外に出して運ぶのは、その分手持ちの荷物が増えて動きにくくなってしまうのです(手荷物が多いと置き忘れの心配も^^;)。

 

…そんなわけで、私はカメラバッグは結局使わず、私のような撮影スタイルの場合には「プチプチ」が最強、という結論に至りました。カメラバッグの購入を検討している人には、プチプチは、ビデオカメラをすぐに取り出せるので撮り逃しがないし、傷んだり汚れたらすぐに取り換えられるのでよっぽど便利、と言いたいです!

 

…とはいえ、こうして、たった1本のマイクが頑丈なジュラルミンケースに収納され、私の商売道具のビデオカメラが簡素な「プチプチ」に包まっているのを見ると、「プロフェッショナルとは…」という問いを突き付けられているかのようです(^^;)

 

 

翌朝、三脚、ビデオカメラ、レンタルしたマイクを持って、野口さんのご自宅兼スタジオへ。

 

 

私は電車とバスで移動しましたが、ジュラルミンケースは、ひとつでも十分重いので、プロフェッショナルな機材を使う体制というのは、そもそも車移動じゃないと難しいだろうと思いました。

 

…でもそうなると、プロジェクトの規模(予算)自体も大きくならざるを得ませんよね? 私のような「基本ひとり」の制作体制では、プロ用の機材をそのまま取り入れるのは難しいので、なるべく品質が良く、なおかつコンパクトで、金額的にも妥当…という視点で、自分にはどんな機材が向いているのかを常に考える必要があると思います。

 

さて、野口さんのスタジオに到着しました。

 

まずは、普段、野口さんが生中継をするときの撮影機材一式を、組み立てる作業を見せていただきました。

 

野口さんは、「ひとりでも出来る、高品質の撮影・配信」というモットーで、ひとりで持ち運びができ、高画質・高音質の撮影や生配信ができる機材を厳選して選んでいます。上述したように、私も基本ひとりの制作体制なので、野口さんの機材選びはとても参考になるのです。

 

野口さんは選挙期間中、候補者たちの演説の生配信もするため、連日10時間超の配信にも耐えられるように機材をそろえているのですが、それら一式がこのコンパクトなキャリーケースに収まるというのですから驚きです!

 

 

 

キャリーケースの中には、機材やケーブルなどがそれぞれ百均のケースやポーチに収納されています。

 

 

野口さんのキャリーケースの中を見ながら、(頑丈な造りの専用ケースよりも、百均のポーチをいくつも組み合わせて使う方が、よっぽど便利だよなぁ…)とつくづく思うのでした。

 

 

 

トラベルポーチも便利に使えるそうです。

 

 

 

こちらは自作の台。三脚の足の部分にはめ込み、モバイルバッテリーを置き、各種デバイスへ電源を供給します。

 

 

 

自作ですから、サイズはぴったり! 黒い部分はマジックテープで、機器をしっかりと固定するために貼り付けてあるそうです。

 

 

通常、カメラを1台乗せるための雲台にも独自の改良が加わって、カメラのほかに、モバイルルーター、ミキサー、マイク、生中継のための配信機器が搭載できるようになっています!

 

 

完成形! まるで神輿のよう!!

 

 

しかも、こちらの雲台は、三脚から取り外して使うことができます。動きまわる被写体を撮影する場合、三脚は邪魔になるので、三脚から外して撮影・配信を続行できるのです! そのためのグリップも取り付けてあり、三脚がなくても安定した姿勢で、ブレずに撮影ができます。

 

 

内臓バッテリーに充電するタイプのバッテリーでは、そのバッテリーが切れたらおしまいですが、内部が乾電池のモバイルバッテリーならば、乾電池を取り換えることでずっと撮影ができます。う~~~ん、芸が細かい!!

 

 

ケーブル類には、どこにつなぐケーブルかがラベルに書かれています。

 

 

このラベルには、野口さんのチャンネル名も書かれていて、中継の現場でほかの撮影者のケーブルと間違えないようにする目的もあります。

 

 

コンパクトながら、ひとりで長時間&高品質の生配信が可能な機材が一通りそろっている。電源がなくても、長時間でも、悪天候でも対応ができる。まるでラーメンの屋台のような世界観!

 

さて、生配信の機材一式を組み立てた後は、いよいよ音についての勉強です。先に述べたように、野口さんの本業は音響と照明なので、用途ごとにいくつものマイクを持っています。

 

 

ミキサーなど。どれも頑丈なケースに入っていますが、これらのケースは特注で、ケースだけで10万円くらいするそうです…!

 

 

 

 

 

これらの機材をそろえるだけで、一体いくらかかるのか?!と気になってしまいますが、照明や音響の業界は、現在、高齢化が進み、若い人たちがなかなか入ってこないのだそうです。

 

というのも、照明や音響の仕事は、まず労働時間がとても長いです。リハーサルのために早くから会場入りし、公演がすべて終了するまで撤収できません。機材はどれも重く、重労働で、高所に設置する作業などは危険でもあります。景気の良かった時代は、仕事に見合うギャラが支払われましたが、近年は公演やイベントの予算規模が縮小し、ギャラも少なくなってしまいました。

 

さらに、照明や音響というのは、ノーミスで出来て当たり前(ノーミスでも褒めてもらえるわけではなく、それが当然と思われる世界)で、間違いを犯すと(たとえば、重要な場面でスポットライトのタイミングを外す等)、その程度によってはむしろペナルティが課される場合もある…。なんとも過酷なお仕事なのです。

 

そんなわけで、現在、照明や音響の業界には若い人たちがなかなか入ってこないのだそうです。もちろん、過酷で条件の悪い業界に人が入ってこなくなるのは当然のことですが、一方で、長い年月をかけて培われた現場の職人たちの技が継承されないというのも損失です。

 

さて、話が少しそれましたが、野口さんの様々なマイクを使い、どのように音が違って聞こえるか、実際に試してみることにしました。

 

以下の写真に映っているマイクは、テレビ業界で定番のインタビューマイクなのだそうです。マイクの近くで話す人の声だけを拾うのに優れており、すぐそばで街宣車が大音量で演説をしていても、マイクを持った話者の声をはっきりと拾ってくれるのだそう!

 

実際に、部屋のテレビを大音量にして、野口さんがマイクで話します。

 

 

私はミキサーにつないだイヤホンで、音の聞こえ方を確認します。

 

 

…確かに、テレビの大音量は気になりません!!!

 

このマイクならば、例えば渋谷の交差点のような雑踏で、通行人の方にインタビューをする…といったシチュエーションでも、話者の声をはっきりと拾ってくれるでしょう。

 

そのほかにも、ボーカルマイクやワイヤレスマイクなど、実際に使いながら音の聴こえ具合をモニタリングしました。

 

さて、次はいよいよ、レンタルしたマイクを使ってみます!

 

 

テレビや商業映画などで定番の、ゼンハイザーMKH416。買うと15万円ぐらいします。

 

 

野口さんのマイクと並べてみます。両方ともゼンハイザーのガンマイク(指向性マイク)ですが、マイク本体の長さやスリットの入り具合により、指向性の度合いが変わるのだそうです。

 

以下の写真・向かって右側、レンタルしたマイクの方が長く、スリットが細かいので、より指向性が強くなります。実際に両方を聴き比べ、聴こえ方の違いを確かめました。

 

 

ブーム(竿)にマイクを取り付けます。竿は頑丈でかなり重いです。これをずっとじっと持ち続ける音声さんって、大変だなぁ…(> <)!

 

 

指向性が強いということは、狙った音だけを確実に録ってくれるということですが、それは同時に、少しでも対象からずれたら、きちんと音を拾えなくなってしまう…ということでもあります。

 

実際、ガンマイクの向き・角度をほんの少し変えるだけで、対象の音がぼんやりしたように聴こえるのでした。

 

部屋の隅に置いたラジオの音声を録る野口さん。マイクの向きを少しずつ変えながら、どのように聴こえるかを試します。

 

 

ブーム(竿)に取り付けたマイクは、上記の写真のように上から録るイメージがありますが、そもそも「音」というのは、下に向かって落ちていくものだそうで、マイクは下に設置する方が音はよく録れるのだそうです。

 

確かに! 下から音を録る方がよく聴こえます!!

 

 

音のためにはマイクは下側に設置した方が良いのですが、例えば政治家のぶら下がり取材(囲み取材)のように混雑した現場では、下にマイクがあると取材陣の邪魔になってしまうので、上からマイクで音を拾うのだそうです。

 

もう、なるほど!の連続だったのですが、こういうマイクを使うには、録音専用の要員(人員)を確保する必要がありますよね。マイクの操作にも慣れていないといけないですし、ずっと持ち続ける体力・腕力も必要ですし、きちんと録れているか、常にモニタリングする必要もあるでしょう。

 

…ということは、私のような一人体制ではなかなかハードルが高いのですが、マイクスタンドを使うという方法も教えていただきました。

 

カメラに映りこまない位置に、マイクを設置。座った状態のインタビューならば、こういう形式も可能かもしれません。

 

 

 

または上部に設置。こちらも、カメラに映りこまない位置に配置します。

 

 

昼過ぎに始まった音の勉強は、気が付いたら21時過ぎになっていました…!

 

最後に、音響の現場で「出来ないと怒鳴られる」という、ケーブルのしまい方(巻き方)を教えていただきました。ケーブルに巻いたクセがつかず、次に使うときにパッと広がるようにする巻き方です。

 

見ていると簡単そうですが、やってみると「逆!」と言われてしまいました(^^;)

 

 

 

(たぶんもう忘れてしまったような気が…^^;!)

 

 

機材をしまう野口さん。

 

 

このコンパクトなキャリーケースに、三脚まで収まっているのです(写真中央)! こうやって見ると、三脚のケースも要らないかもしれないですね。

 

 

キャリーケースのもう片側を埋めていきます。養生テープも、会場で音声やインターネットの長いケーブルを這わせたりするのに必需品でしょうね。

 

 

最後に、自作の台も忘れずにしまいます。

 

 

恥ずかしながら、「音」について、こんな風に実機を使って習うのは、私は初めてのことでした。お忙しい中、撮影や録音の機材について丁寧に教えていただいて、奥深い録音や配信の世界を、入り口部分だけでも理解することができました。

 

野口さん、どうもありがとうございました!

 

気が付けば、22時ごろまでお菓子をつまんだだけだったので、帰りにコンビニで夜食を買いました。

 

セブンイレブンの「辛口スタミナラーメン」。

 

 

ガーリック・スライスがびっしり敷き詰められて…って、私はどれだけスタミナ切れだったんでしょうね(笑)

 

 

 

以上、「音」のプロフェッショナルに学ぶ!~なにぬねノンちゃんねる・野口昌泰さん~でした!