4月2日から13日まで、『さようならUR』のフランスでの上映のため、パリとボルドーに行ってきました。
今回の上映は、日本のドキュメンタリー映画をフランスで紹介する団体「Fenêtres sur le Japon (日本への窓)」が企画して実現しました。
「Fenêtres sur le Japon」のNicolas PINETさんが、国内外の公共住宅を研究対象としていて、私の『さようならUR』も日本に滞在していたころに観てくれており、それで今回、字幕翻訳・上映のお話をいただきました。
フランスの大学で、日本について学ぶ学生たちの授業の一環として、映画のフランス語字幕を作り、映画館などで上映をする。これは、「Fenêtres sur le Japon」にとって初めての試みなのだそうです。
「Fenêtres sur le Japon」、『さようならUR』上映に関するページ
https://fenetres-japon.fr/?p=2199
今回、授業で字幕翻訳をしてくれたのは、ボルドー・モンテーニュ大学の大学院で、日本について学んでいる学生さんたちです。
たいてい、映画の字幕を複数人で担当する場合は、映画をいくつかのパートに分け、分担して訳すのが一般的かと思いますが、今回は、全員がすべてのパートを翻訳したそうです。
1年間の授業のなかで、毎回数十のセリフを全員が宿題として翻訳し、先生がその中からいくつかの翻訳をピックアップし、訳し方や表現についてみんなでディスカッションをする。映画の中に出てくる表現で、専門用語やフランスの社会制度にないものについては調べる。登場人物の話し方が、その人の属性などによってかなり異なるので(住民、建築家、官僚、弁護士など)、それらの違いもフランス語で表現できるように工夫する…などの取り組みをしてきたそうです。
映画館での上映後、字幕を担当してくれた学生さんたちと。皆さん、1年かけてこの映画を翻訳しただけあって、映画の細部までとても詳しい…!!

翻訳の授業を受け持つGuillaume MULLER先生によれば、これまで、この大学の翻訳の授業では、日本の近代文学作品(例えば三島由紀夫など)を翻訳していたそうです。ですが、文学作品の場合、せっかく翻訳してもそれが何かに使われることは稀で、翻訳しておしまいだったそうです。
でも今回、映画の字幕を授業で翻訳し(それは当初予想していたよりずっとハードなことだったそうですが!)、学生たちの名前がエンディング・クレジットに記され、その映画が映画館で上映されるという経験に、とても報われる思いがあったとのことでした。
今回を機に、今後の翻訳の授業では、また日本の映画の翻訳をするかもしれないとGuillaume先生は言っていました。今後、さらに多くの日本の映画が、フランスで紹介されていく機会になるとよいです。
ところで、上映の前には、ボルドー・モンテーニュ大学で講演も行いました。大学院生を対象に、「ドキュメンタリー制作を通じて視る日本社会」という講演タイトルで、写真や動画を交えながら70分ほどお話ししました。講演も質疑応答もすべて日本語でした。

(写真提供:Guillaume MULLER先生)
ボルドー市内の映画館「Utopia」での上映の様子。会場は、古い教会を改装した映画館で趣がありました。質疑応答の司会は、ボルドー・モンテーニュ大学で、日本の世界遺産建築を専門とする、Delphine VOMSCHEID先生がつとめてくれました。

(写真提供:Guillaume MULLER先生)
ボルドーでの上映の翌日、パリにもどり、INALCO(フランス国立東洋言語文化学院)にて上映と講演を行いました。
INALCOは、フランス革命よりも前、ルイ14世の時代・1669年に設立された、西洋以外の言語・文化を専門とする国立大学だそうです。104もの言語を学べ、日本語だけで1,000人以上の学生が学んでいるとか。

こちらは、参加学生がまだ日本語学科の1年生であることと、一般の参加者も多くいたため、講演&質疑応答共に英語で行いました。パリ在住の日本人の方や、建築を学ぶ学生、公共住宅に関わる人など幅広い参加があり、質疑応答は70分以上続いて、予定時刻を大幅に過ぎて終わりました。


司会は、INALCOで日本の精神医学を専門とするSarah TERRAIL LORMEL先生が担当してくださいました。Sarah先生によれば、これまで、授業の中で日本の映画を鑑賞することは何度もあったそうですが、外部の人も参加できる上映会をINALCOで行ったのは、先生は初めてだったそうです。今回の上映について、いったいどこから情報を知ってくれたのか、隣国・スイスで建築を学ぶ学生からの問い合わせもあったそうで、驚いていました。
Sarah先生は、江戸時代の座敷牢から現代の社会的入院(医学的には退院可能にもかかわらず、介護力不足、経済的な理由などで、長期的な入院を余儀なくされること)、引きこもりなどにもとても詳しいです。
日本が抱える社会問題について、Sarah先生は、フランスから見ればとても奇異な状況に見えるかもしれない、でもフランスも同じ方向に向かっているし、フランスの将来の姿でもあるという問題意識で、日本について学ぶ学生たちに教えているそうです。
INALCOでの上映後、Sarah先生、「Fenêtres sur le Japon 」のDimitriさんほか、上映会に参加された方々と。

上映以外の日は、主にパリの住宅事情について取材をしていました。取材結果は、来月と再来月あたりに、都内で発表を行う予定です。詳細が決まりましたらお知らせします。
以上、『さようならUR』フランス上映の報告でした!