女性情報「Woman Director Now!」に執筆しました♪

パド・ウィメンズ・オフィス発行の雑誌、「女性情報」の2016年12月号に執筆しました。女性監督が、自分の作品や活動について語る、「Woman Director Now!」というコーナーです。

 

出版元の許可を得て、以下に掲載ページをご紹介します。最新作『インド日記』の中で、とくにSEWAの活動について取り上げました♪

 

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上の画像ではご覧になりづらい方は、下記の全文書き起こしをご覧ください。

 

Woman Director Now! Vol.10
インド・ビデオSEWA ドキュメンタリーで社会を変える女性たち
早川由美子

 

「呼ばれて行く国」とも言われるインド。私もおそらく何かの力に“呼ばれて”、初めてインドに行くことになった。毎年、インドの首都・デリーで開催されるアジア女性映画祭で、自作のドキュメンタリー映画『踊る善福寺』が上映されることになり、約2週間インドに滞在した。この時の記録映像をまとめ、この度『インド日記』DVDとして完成させた。

 

インドに行くなら、インドでドキュメンタリーを作っている女性たちに会いたいと思った。友人の紹介で駐日インド大使と面会する機会があり、お土産としていただいた本で、インドの女性団体SEWAの存在を知った。

 

SEWAは、「Self-Employed Women’s Association」の頭文字をとった団体名で、直訳すると「自営業に従事する女性たちの協会」である。「自営業」というと、経営者的なイメージだが、SEWAは日雇いや露天商など、搾取されがちな職業に従事する人々を「自営業」と呼んでいる。

 

SEWAの女性たちは、約40年前に協同組合の銀行を設立して自らの生活を向上させ、読み書きのクラスを運営し、100を超える協同組合事業を立ち上げて自分たちの雇用を守ってきた。映像専門チームを作り、積極的に情報発信し、映像の力で社会を変えようともしている。アーメダバードという都市を中心に、会員はインド全土で約200万人。世界にも支部があるという。

 

私はSEWAについて初めて知ったのだが、これはもう、アーメダバードに彼女たちを訪ねに行くしかない!と考え、デリーの映画祭スタッフに連絡をお願いし、インド滞在中、アーメダバードにSEWAを訪ねた。

 

私が訪問したのは、SEWAの教育部門で、映像制作を協同組合事業として行っている、ビデオSEWA。フルタイム8名、パートタイム20名のスタッフが、各地を取材し、映像を制作している。作品のテーマは、女性の権利、雇用、教育、貯蓄、健康、保健衛生など、暮らしに密着した内容。作成したビデオプログラムは、各地で上映し、啓蒙・教育活動に貢献している。電気が通っていない村には、モニターと発電機を搭載した車で出かけ、上映を行う。教材としてビデオを使うのは、読み書きのできない人も理解できるという利点がある。

 


ビデオSEWAの写真ワークショップに参加 (C) Petite Adventure Films

 

ビデオSEWAメンバーたちに、インタビューをさせてもらった。どのようなきっかけでビデオSEWAに加わったのか、映像制作を始めることで、どのような変化が自分の中に起こったか、どんなテーマに関心があるか、など。

 

彼女たちにインタビューをしていて、頻繁に出てきた言葉が「Self confidence」だった。日本語では単に「自信」、「うぬぼれ」などと訳されてしまうことが多い言葉だが、彼女たちは「自分に自信・誇りを持つ」というような文脈で使っていた。

 

カースト制が社会にいまだ色濃く残り、伝統的・社会的に女性の立場が弱いインドでは、「Self confidence」であることは、実際、非常に難しいことだ。女性は外出さえ許されず、家の外ではサリーで顔を覆う「グムタ」という風習も、地方では当たり前のように存在する。父兄が選んだ相手との結婚を拒否すれば、女性は殺されたり、塩酸を顔にかけられたりする事件も後を絶たない。

 

そのような社会で、女性がビデオカメラを手に、いろんな場所へ出かけ取材をする、記録映像を武器に、違法な雇用主と法廷でたたかうなどという彼女たちの活動は、きっと「とんでもないこと」なのだろう!!

 


農地の強制収用に反対する農民たちの抗議集会 (C) Petite Adventure Films

 

しかし、目の前でインタビューに答えるビデオSEWAの女性たちは、とても気さくでフレンドリーだ。メンバー最高齢のリーラ・ダンターニさんは、野菜の露天商をしていた40歳の時にSEWAと出会い、ビデオSEWAのメンバーになったという。文字の読み書きができないので、カメラの扱いは「▶」(再生)など、シンボルマークで覚えた。

 

当時、露天商の仕事は過酷で、路上での販売行為に対し、警察がショバ代を請求したり、命令に従わないとこん棒で殴るなどの嫌がらせを受けていた。リーラさんたちは、その様子を映像で記録し、証拠として裁判所に提出し、最高裁から路上販売の権利を認める判決を勝ち取った。現在76歳のリーラさんは、今も現役で、ビデオカメラを担いで取材に出かける。

 

今日、この限られた紙面でお伝えしたエピソードは、私がインドで出会った女性たちの、ほんの一部でしかない。ぜひ、『インド日記』のDVDまたはブルーレイをご覧になり、困難な状況をビデオカメラで変えていく、しなやかでたくましいインド女性たちの姿を見てほしい!

 

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「女性情報」2016年12月号(パド・ウィメンズ・オフィス)に掲載。