【映画監督、日々の暮らし⑩】「タネの神様」に会いに行く!(前編)

「遺伝子組み換え作物」や「モンサント社」などの言葉を聞いたことがあり、多少関心・問題意識のある人ならば、きっと「F1種」という言葉も聞いたことがあるでしょう。

 

私も畑をやる前から、「F1種」という言葉は知っていました。「F1種」とは、昔から育てられてきた「在来種」・「固定種」とは異なり、一代限りの種のこと。現在販売されている種のほとんどはF1種なので、農家は毎年種を買わなくてはならなくなった…このようにざっくりと理解していました。

 

F1種は嫌だなとは思いつつも、私のように小さな畑の人は、野菜1種類につき種1袋(200~300円程度)を買うのは、かえって多すぎて困るほどなので(白菜だけでも、1袋に500粒以上入っていて、植える場所の確保に相当苦労しました^^;)、F1種で毎年種を買わなければならないと言っても、金額的にはそう負担ではありません。むしろ、種を毎年買い替えるのは、違う作物に挑戦できて面白いとさえ思っていました。

 

「種」はもちろん、トマトやナスなど「苗」で売られる野菜のほとんども、F1種から育てられた苗です。でも、苗もせいぜい100~300円で、それで夏の間じゅう収穫ができるのですから、F1種の苗を買って育てることにも、抵抗はありませんでした。

 

私は畑を始めて2年目です。今年の春に、夏野菜用に畑を耕し、トマトなどの苗を買ってきて植えようとしたら、畑のあちこちに、昨年こぼれ落ちたトマトから発芽しているのを見つけました。(今から思えば、他の野菜の種からもおそらく発芽していたのだろうと思いますが、トマトの葉・苗は形状が独特なので、雑草と区別がつきやすいです)。

 

(F1種のトマトだったのに発芽してる! ラッキー♬)とうれしくなり、私は発芽した苗の何本かを、育てることにしました。支柱を立てて支えると、やがて花が咲き、実がなりました。実の大きさは不揃いで、色づきがまだらではありましたが、収穫して食べてみました。

 

…何これ、トマトじゃない…

 

ひと口かじって、驚きました。見た目は「トマト」ですが、味があきらかにおかしいのです。ぼんやりしたような苦み、もしくは無味。トマトの青臭さも、甘みもありません。「見た目」だけがトマト。。。なんだか気味が悪くなってしまいました。

 

その時の経験から、(F1種ってどういうこと?)と思うようになりました。私は、「F1種=一代限り」と覚えていたので、「種ナシぶどう」もしくは鶏卵の「無精卵」のように、子孫を残さない(残せない)タイプの野菜なのだと思っていました。しかし、調べてみると「一代限り」というのは、一代目だけが優れた性質を持ち、2代目以降は品質や形状がめちゃくちゃになる(分かりやすく言えば)…ということだったのです。

 

なので、昨年購入したF1種のトマトの苗は、昨年は旺盛に実がなり、甘くておいしいトマトができましたが、その種から育った今年のトマト(二代目)は、初代とは似ても似つかない、鍵カッコつきの”トマト”になってしまったのでした。

 

こ、怖いなぁ…

 

それからしばらくして、「女のしんぶん」片桐美佐子さんからインタビューをしていただく機会がありました。その際、片桐さんがこれまでに書いた記事の話になり、F1種ではない、在来種・固定種の種を専門に販売する日本で唯一の種屋、「野口のタネ」について最近書いたとお聞きしました。

 

(うわ、すごくタイムリー!)と、私も、自分のトマト苗の経験を話しました。すると後日、片桐さんが野口のタネで購入した在来種の種を、おすそ分けして送ってくれました。

 

 

 

 

 

 

頂いたほとんどの種は「春まき」のものだったので、実際に蒔けるのは来春ですが、スプラウトなら通年栽培できますね^^

 

 

 

食用のひょうたん?! どんな野菜の種を買うかにも、その人の個性や好みが現れる気がします^^

 

 

いよいよ私も在来種!と、なんだかワクワクしてきました。しかし、F1種と在来種では、育て方にも違いがあるのかもしれません。そう思って、ネットで少し検索して見ました。

 

すると…

 

在来種では、「無肥料で育てる」&「連作をする」ことが推奨されていました。…これは、一般的な農業、家庭菜園の常識とは真逆のことです。

 

…どういうこと?!?!

 

農業をしていない人だって、食物が育つには、それが有機であれ化成であれ、窒素、リン酸、カリウム等の肥料成分が必要だということぐらい知っています。また、「連作障害」という言葉も、一般に広く知られています。

 

肥料を与えない、連作をし続けろって、…それで野菜がちゃんと育つのでしょうか???

 

ネットで情報の断片を集めるだけでは、在来種の世界を理解するのは難しいかもしれないと思い、野口のタネのオーナー、野口勲さんの著書「固定種野菜の種と育て方」を購入しました。(共著者の関野幸生さんは、無農薬無肥料栽培で在来種を育てる農家)。

 

 

 

前書きには、以下のように書いてあります。

 

 

あらためて、F1種とはどのようなものなのか、この本で書かれている説明をかいつまみながらご紹介します。

 

F1とは、First filial generation(最初の子どもの世代)の略で、異なる性質の種を掛け合わせて作った、雑種の一代目のことです。異品種を掛け合わせた雑種の一代目というのは、遺伝の法則の基礎でもある「メンデルの法則」により、両親の優性形質だけが現れます。生育が旺盛で、特定の病気に耐病性をつけやすく、大きさも風味も同一の野菜が育ちます。ただし、F2(雑種第二代)になると、隠れていた劣性形質が出現し、姿かたち・品質がめちゃくちゃな野菜となってしまうのです。私の畑で昨年の種から育ったトマトがおかしな味だったのは、このためだったのです。よって、これらF1種の作物から採取した種を翌年利用することはできず、毎年新たなF1種を購入する必要があります。

 

F1種の普及は、種苗会社側の「農家に種を毎年買わせる」ためだけでなく、農家、市場、外食産業、そして消費者のニーズにもかなっていました。F1ならば、野菜の生育が旺盛で、均一に育つので、畑の回転率を上げ、収穫量も増えます。サイズのそろった野菜ならば、箱詰めしやすく、輸送にも便利です。また、大きさが均一ならば、「1本100円」などの特売セールで売りやすいです。味が均一なので、外食産業にとっては個体ごとの風味に左右されることなく、均一の料理を提供できます。消費者の「苦味」や「エグみ」を嫌がる嗜好に合わせ、味や食感も変化させていきました。

 

経済効率最優先の社会の要請にこたえ、在来種はどんどんF1種に切り替わっていきました。輸送中に傷まないよう、トマトやナスの皮は固くなり、ビニールハウスで周年栽培できる品種が作られ、店頭ですぐに売れなくても日持ちする品種も生まれ…と、野口さん曰く「日本中の野菜がどんどん不味くなっていった」そうです(> <)。

 

F1は比較的新しい技術なのかと思っていたら、なんと、昭和40年代ごろにはほとんどの野菜がF1種に代わってしまったそうです。「昔のトマトは…」などと、トマト本来の味を懐かしむことができるのは、60歳以上の人たちということになります。

 

さて、このF1種、どのような仕組みで作られているかというと、遺伝的な欠陥である「雄性不稔(ゆうせいふねん)」を利用する方法が、現代の主流となっているそうです。不稔とは、雄しべや葯(やく)に異常があり、花粉を作れない、又は花粉の機能不全を意味します。動物で考えると、つまり男性不妊・無精子症などに当たります。そのような株の近くに、健全な花粉を作れる父親役の品種を植えることで、その花粉でのみ受粉することができるのです。

 

遺伝的な欠陥を持つ植物でも、本来の生命力が働いて、遺伝的な欠陥を修復しようとすることがありますが、そうするとF1種づくりがうまく行かなくなってしまうため、種苗会社では、そういった株(修復された雄性不稔株)を全部引き抜いてしまいます。わざわざ遺伝的に不健康な株だけを残し、健康な株を捨てる。そして現在では、雄性不稔の株を作り出すために遺伝子組み換えを行うという動きまで出ているそうです…!

 

野口さんは、「果たしてこれは野菜にとって、そしてそれを食べる私たちにとって、健全なことなのでしょうか?」と問いかけます。

 

本を読み進めるうちに、もちろん一読者としては(F1を食べたくない。ましてや育てたくない。在来種を栽培したい)と思うようになります。しかし、私が購入した本(「固定種野菜の種と育て方」)は、F1種の問題を取り上げるだけでなく、在来種の育て方と種採りの実用書も兼ねた本なので、特に「種採り」部分を読むにつけ、畑仕事をかじったことがある人ならば(これは生半可な気持ちでは取り組めない)ということが分かります。

 

というのも、F1種を使った畑ならば、実を収穫すれば終わりです。ナスなら実が大きくなれば収穫し、大根ならば根が十分太れば終わり。収穫のあとは、畑を整地し、たい肥や肥料を施して、次の作物を植える準備をします。そうやって、少なくとも1年に2回(春と秋)は畑を回転させ、限られたスペースを有効に活用します。

 

しかし、「種採り」をする場合、通常の「収穫」は、折り返し地点にしかすぎません。例えば人参の場合は、8月に種を蒔き、12月~1月にかけて収穫したあと(通常はこれで終わりで、次はそのスペースを春野菜用に使う)、生育の良い株を「種採り用」として収穫しないでそのまま育て、梅雨時に花が咲き、やがて種ができるまで植えておくのです! ですから実際に「種採り」ができるのは7月で、実に1年もの間、その場所を人参だけが占領するのです!

 

人参は、種ができ、それが褐色にかわってきたら、房ごと取り込んで、日陰で追熟させます。房から種をこしとり、種の周りについている毛を取り除いて、半日、お日様にあてて干し、その後1週間、日陰で乾かします。そして乾燥剤入りのタッパーに入れて、冷蔵庫で保管。。。

 

もう、書いているだけで気が遠くなってしまいます(^^;)。私は今年、シシトウとピーマンにカメムシが大量発生したので、早々と強制終了させてしまいましたが、「種採り」をするなら、最後まできちんと育て上げなければ種を採れないのです。これまでのゴールは「収穫」だったのに、「種採り」がゴールとなると、道のりが2~4倍以上になってしまいます…(> <)!!

 

ところで、私が在来種の育て方についてネットで調べ始めた時、「無肥料で育てる」、「連作をする」ことが推奨されていて驚いたと、はじめに書きました。本には、その理由が書かれていました。

 

在来種の無肥料・連作栽培を実践している関野さんによれば、「肥料と農薬の量は比例する」そうで、肥料を与えれば与えるほど植物は軟弱に成長し、細胞同士の結びつきが弱くなってしまうそうです。そうすると、病害虫に対する抵抗力が弱くなるので、農薬を使わざるを得なくなります。肥料を使うほど、結果として農薬も必要になるのです。

 

逆に、一切肥料を与えずに育てれば、土壌本来の生態系が戻り、土中の微生物も働き、作物も植物本来の姿を取り戻していきます。その際、重要になるのが「種採り」と「連作」です。在来種の種を蒔き、育った中から、病害虫に強く生育が良かったものを選んで種を採り、その種をまた同じ土地に蒔くということを繰り返します。

 

自家採取した種を同じ場所で連作することで、在来種の持つ遺伝的な多様性と環境適応性が発揮され、親の形質を受け継ぎながら、その土地に適合した野菜に生まれ変わっていくのだそうです。肥料を使わなければ、土に余計な肥料分が残らないので、連作障害も起こりません(連作障害は、いわば「肥料障害」とのこと)。

 

これを読んで、私の中で合点のいくことがありました。それは、庭に自生する植物たちの姿です。私の家では、10畳分ぐらいのスペースに、フキがびっしりと生えています。シソも庭のあちこちに、大量に生えています。これらは、私は一切手入れをしませんし、もちろん肥料や水やり、雑草取りもしません。でも、真夏の日照りの時期に、日中クタっと萎れる程度で、夕方になるとまた息を吹き返し、何度刈り取ってもまた生えてきます。

 

肥料・水をやらないと、植物は自分に必要な栄養素を得るため、土中に深く深く根を伸ばすようになるそうです。土地に適応して根付き、自生となったものの強さとはこういうことなのかと、フキの姿を見て思い知らされた気持ちになりました。(ただし、在来種の無肥料栽培は、一切の手入れをせず雑草も取らない「放任栽培」ではなく、自然の生態系に近い状態を人工的にアシストして保つため、有機栽培とはまた異なる視点のこまめな「手入れ」が必要です)

 

旺盛に育つ庭のフキ。フキの旬は春ですが、何度刈り取っても、秋口まで生え続けます。

 

 

本の中で、「植物は、動物と違って動き回らない選択をした結果、その場で環境に適応する術を身につけた。そうして、環境に適応した姿かたちを作り出し、その場でうまく自給していけるようになっていく」…というくだりにも、深く感じ入ってしまいました。(人間にも同じことが言えるのではないかしら?)、と。その土地で生まれ、家業を継ぎ、家と土地をまもる…という宿命を背負った人(そういう選択をした人)は、そこで生きていくための「適応」をしていくものなのかもしれない。。。

 

私自身は根無し草ですから、これは推測でしかないんですが…(^^;)!!

 

ちなみに、関野さんの場合は、虫に食われやすい野菜を、わざと防虫ネットをかぶせずに育て、虫食いが少なかった株を「種採り」用に選んで、虫食いに強い品種に育てていくのだそうです。…うわぁ、こうやって逞しい品種を選抜し、育てていくのですね…!

 

ところで、在来種無肥料栽培の場合、「種採り」までに時間がかかるというのもさることながら、「畑を回転させることが出来ない」というのも、大きなネックです。種採りと連作をするために、その場所では毎年、その野菜1種類しか栽培できません。他の野菜を植えてしまうと、そこの土が混乱してしまうのだそうです。家庭菜園をやる人の多くは、最低でも年2回、春と秋に種を蒔きますから、それが1回だけになってしまうというのは、限られた畑のスペースがもったいないとも感じるでしょう。

 

 

とにかく、F1種と在来種の違いについて理解し、在来種を育てるための無肥料栽培と連作の必要性、そして種採りの大変さも知った私は、(では果たして、一体どれだけの人が、本当にこれを実践しているのか?)と、疑問に思いました。

 

私のまわりでは、家庭菜園で無農薬・有機栽培を長年されている方々が結構います。その人たちに質問してみました。「在来種を育てていますか? 種採りもしていますか?」、と。皆さん、山で枯葉を集めてたい肥を自作したり、抗生物質のエサを与えていないニワトリの鶏糞を買い求めに行ったり…と、無農薬・有機栽培のこだわりが特に強い、ハードコアな方々ばかりです。さて…

 

結果は、ほぼ全員が「ノー」でした。「ほぼ全員」という書き方をしたのは、育てているのはほとんどがF1種だが、ほんの少し、特定の作物だけは、種採りを繰り返しているものもある、という意味です。F1種が嫌だと思い、在来種に興味を持ち、育ててはみたけれど、とにかく発芽率が悪い、生育が遅い、実のつき方が悪い、種採りまで時間がかかりすぎる…etcで、「結局またF1種に戻った」という方がほとんどでした。

 

無農薬・有機栽培を30年続けている人でも挫折する、在来種の栽培と種採り。たかだか畑2年目の私なんて到底無理だろうなぁ…と思いつつも、本の中で関野さんが、在来種の無肥料栽培で育てられた野菜を「雑味がなく、すっきりしている」とか、種採りと連作を繰り返すことで「どんどん味が濃くなり、今では旨みの塊のよう」と評していることに、すっかりと心を奪われてしまいました。

 

関野さんに言わせれば、無農薬・有機栽培で育てられたF1種の野菜は、いくらオーガニックで、美味しいと言われているものでも、たい肥の味がし、特に鶏糞を使ったものにはアンモニア臭を感じるそうです(> <)。私自身は、鶏糞や魚粉、油粕、米ぬかなどを使って肥料を手作りしていますが、アンモニア臭は感じたことがない(わからない)です。でも、関野さんのような、「利き酒」ならぬ「利き野菜」が出来るような作り手は、きっとその違いが分かるのでしょうね。

 

嗚呼、無肥料栽培の在来種、食べて見たいなぁ!! かなり大変そうだけど、私も栽培に挑戦してみたい!!

 

そして、本を読み進めていくうちに、著者の野口勲さんにお会いしたい、直接話を聞いてみたいという想いもつのっていきました。

 

ふと、今年の春に知り合った大澤さんが、飲み会の席で「タネ屋の野口と知り合いだ」と言っていたなぁ??と思いだしました。その時は、すぐに話題が変わってしまったので、うろ覚えではありましたが。なんとかして会える方法はないものかと、大澤さんに連絡し、「野口勲さんとお知り合いなんですか?」と聞いたところ、なんと、高校の新聞部の先輩・後輩の間柄というではありませんか!!!! なんということ!!

 

…いよいよ野口さんとご対面なるか!? 続きは「後編」へ(^^)/